7.乖離率利用のシミュレーシ三ヨン結果
前回,波動限界比率(波動比率)p%を指旨定する天底探しの話を書きました。pをいろいろな値に変えて底(p%天底)を決めると,かなりウネリ取りやリズム取りの参考になるように思います。筆者は,現在,実験売買しながらp%天底の利用法を検討し,面白い結果を得ています。p%天底を利用するアノマリーの話は,本誌の編集方針に差し支えなければ,来年から紹介させていただきます。
今回は,従来から検討してきた乖離率を指標とする「過剰反応効果」アノマリーの話のしめくくりとして,移動平均からの乖離率(移動平均乖離率)と移動直線回帰からの乖離率(移動直線回帰乖離率)を利用したシミュレーション結果を紹介させていただきます。
移動平均乖離率の計算方法は,ご存知の方が多いと思います。また,その性質の概要を本誌3月号で紹介tしました。そこでこの説明は省略し,まず,移動直線回帰値と移動直線回帰乖離率について,きわめて簡単に説明します。
本誌1月号で,トレンドと乖離率の説明をしたとき,回帰直線の話を書きました。移動直線回帰値は,移動平均と同様な考え方を,回帰直線に取り入れたものです。
まず,移動日数を決めます。次に,場帖などの日足終値のリストの最初から,移動日数と同じ立会日数の日足終値を使い,終値の勤きに最も当てはまる直線の数式を作り,その数式に計算に使用した期間の最後の立会日の番号を代入して直線上の値を求め,その立会日の直線回帰値とします。
次に,移動平均を求める場合と同様に,立会日をl日ずつずらし,リストの最後の立会日まで,次々に直線回帰値を求めます。
というような上記の説明では,どのように計算するのか,まったく分からないと思います。しかし,電卓ではほとんど不可能な計算ですし,具体的な計算方法の説明には,どうしても数学的表現をしなければなりません。短い紙数てば説明できませんので,「きわめて簡単な説明」でご勘弁願います。
表1をご覧ください。「3402東レ」の本年5月〜10月までの日足終値,25日移動平均および25日移動直線回帰値を表示してあります。移動平均からの乖離率は,移動平均から終値を引き,これを終値で割って100倍した値です。移動直線回帰値からの乖離率も同様に計算します。筆者が使っているパソコンなら,この程度の終値の個数の移動平均と移動直線回帰値や乖離率の計算時間は,わずかl〜2秒です。
図1をご覧ください。表1を折れ線グラフにしたものです。横軸は立会月日で,月初めの位置に月番号を書き,縦方向に点線を引いてあります。縦軸は株価で,100円置きに株価を書き,横方向に点線を引いてあります。また,太線は終値の折れ線,細い点線は25日移動平均線,細い破線は25日移動直線回帰線です。
移動平均線は,すでに述べたように,終値の折れ線よりだいぶ右側にズレています。これに対し,移動直線回帰線は,ズレ方があまり大きくなりません。同じ移動日数なら,終値折れ線からのズレの大きさは,移動平均線は大きく,移動直線回帰線はあまり大きくありません。
図2をご覧ください。「1920殖産住宅」の本年5月〜10月までの日足終値の折れ線,25日移動平均線および25日移動直線回帰線です。「3402東レ」と同様に,終値折れ線からのズレの大きさは,移動平均線は大きく,移動直線回帰線はあまり大きくありません。
移動日数をいろいろに変え,何回も売買シミュレーションを行い,移動平均乖離率と移動直線回帰乖離率の利用価値を検討してみました。その結果,移動日数が30日の移動平均乖離率(30日移動平均乖離率)と移動日数が120日の移動直線回帰乖離率(120日移動直線回帰乖離率)の場合,最も売買効率が高そうでした。
ただし,移動平均乖離率は「買」に弱く,「売」に強いようです。これに対し,移動直線回帰乖離率は,「買」に強く,「売」に弱いようでした。指標としての利用効率の強さが,ちょうど逆になりました。うまい具合に,両方の乖離率が互いに弱い部分を補完しあっていました。
表2をご覧ください。FAI銘柄1,074社の1991年l月〜1994年6月の3.5年間の日足終値を使い,1売買単位で1回だけの売買(単発売買)を,「買」から入って売手仕舞い(「買→売」)する場合のシミュレーション結果です。 まず,120日移動直線回帰乖離率が‐35,‐30,‐25,‐20,-15および‐10%以下(買限界乖離率)になったとき,「買」を仕掛けたらどうなるか,比較しています。また仕掛けた後,30日移動平均乖離率が‐5,0,5,10,15および20%以上(売決済乖離率)になったら手仕舞ったらどうなるか,比較しています。合計36種類の条件のシミュレーション結果です。
仕掛けた後,本年6月までに手仕舞うことができた銘柄数(売買実施銘柄数)は,当然ですが,買限界乖離率が低ければ少なく,高ければ多くなっています。また,売決済乖離率が低ければ多く,高ければ少なくなっています。
売買結果の整理は,まず値洗いで,損益がマイナスかプラスかを調べてみました。損益がブラスになる比率が最も高かった場合は,買限界比率が‐35%で売限界比率が0%の場合です。しかし,売買実施銘柄数ば,3.5年間で37に過きません。これでは,ほとんど売買チャンスがなかったことになってしまいます。
2番目に良い成績が得られた条件は,買限界乖離率が-20%で売決済乖離率が-5%の場合です。3.5年間の売買実施銘柄数は505,そのうち損益がプラスになった銘柄数が459(90.9%)です。
3,5年間で売買した銘柄の決済した回数の平均(平均決済回数)は,買限界乖離率が-20%で売決済乖離率が-5%の場合,2.2回です。1単位だけ仕掛けることにしてありますので,3,5年間で売買した銘柄ごとの売買単位数の平均(平均売買単位)は,平均決済回数と同じです。
買限界乖離率が-20%で売決済乖離率が-5%の場合,3,5年間で売買した銘柄全体のl売買単位当たりの利益額(平均単位利益:円単位)は69.1円,買値と売値の平均(平均売買値)は834.4円,1売買単位当たりの利益率(%)の平均(平均単位利益率:100×平均単位利益/平均売買値)は8.3%です。
「買→売」単発売買では,ある程度頻繁に売買する場合,引かされる可能性を低くする条件があるとしても,取引コストが売買値の約4%であることを考えると,あまり効率が良くありません。
表3をご覧ください。仕掛けと手仕舞いの条件は表2と同じですが,1単位仕掛けた後,買値の10%以上さらに終値が下がったら,もう1度l単位仕掛けることにした場合のシミュレーション結果です。つまり,難平率を10%とした「買→売」2等分割売買の場合です。ただし,最初に仕掛けた後,難平しないうちに売決済乖離率に達した場合,仕掛けが1単位のままで手仕舞うことにしてあります。
表2と比べると,全体として,損益がブラスになる比率が高くなっています。また,平均決済回数は同じですが,平均売買単位と平均単位利益は高くなり,平均売買値は低くなっています。したがって,平均単位利益率が高くなっています。単発売買より,わずか2回の等分割ですが,分割売買のほうが有利です。
表4をご覧ください。仕掛けと手仕舞いの条件は表2や表3と同じですが,1単位仕掛けた後,買値の10%以上さらに終値が下がったら,今度は2単位仕掛けることにした場合のシミュレーション結果です。つまり,難平準を10%とした「買→売」2不等分割売買の場合です。ただし,最初に仕掛けた後,難平しないうちに売決済乖離率に達した場合,仕掛けがl単位のままで手仕舞うことにしてあります。
表3と比べると,全体として,損益がプラスになる比率がやや高くなっています。また,平均決済回数は同じですが,平均売買単位と平均単位利益はさらに高くなり,平均売買値はさらに低くなっています。したがって,平均単位利益率がさらに高くなっています。わずか2回の1:2の不等分割ですが,等分合割売買より有利なことは明かです。
30日移動平均乖離率(売限界乖離率)を使って「売」から仕掛け,120日移動直線回帰乖離率(買決済乖離率)を使って買手仕舞いする場合も,いろいろ検討してみました。「売→買」の場合も,「買→売」の場合と同様に,単発売買より分割売買のほうが有利で,等分割より不等分割のほうがいっそう有利な結果が得られています。
表5をご覧ください。「買→売」や「売→買」の一方向だけの売買ではなく,チャンスになれば「買」からでも「売」からでも仕掛ける両方向の「買�売」売買のシミュレーション結果です。ただし,いろいろ検討した結果,難平率と買限界乖離率は12%と-37%に固定し,売決済乖離率ば20と21%,売限界乖離率は19,18および17%,買決済乖離率は-22と-23%の組合せ,合計12種類の条件のシミュレーション結果です。結果の表示は,売買銘柄数,10%刻みで丸めた-100から150%の利益率の銘柄数の分布および平均単位利益率だけにしてあります。
どの場合でも,損益がマイナスになる比率は,きわめてわずか(2.1〜2.3%)です。しかし,平均単位利益率ば3.5年間で40%前後に過ぎません。したがって,乖離率を利用する「過剰反応」アノマリーによる株式投資は,ハイリスク・ハイリターンではなく,ローリスク・ミドル・リターンといえそうです。ただし,ある程度は株価と資金力に関係しますが,工夫して難平率を少し小さ目にし,分割回数が多い両方向の不等分割売買をすれば,多分,ローリスク・ややハイリターンになるかもしれません。技術力を少し磨きさえすれぱ,誰がやってもそうなる,と思っています。