目次

監修者まえがき

第1部 テクニカル分析の理論

第1章  株式の売買と投資に対するテクニカルなアプローチ
第2章  チャート
第3章  ダウ理論
第4章  ダウ理論の実践
第5章  ダウ理論の欠点
第5.1章  20~21世紀におけるダウ理論
第6章  重要な反転パターン
第7章  重要な反転パターン(続き)
第8章  重要な反転パターン――三角形
第9章  重要な反転パターン(続き)
第10章  その他の反転パターン
第10.1章 潜在的な重要性を持つ短期パターン
第11章  保ち合いパターン
第12章  ギャップ
第13章  支持線と抵抗線
第14章  トレンドラインとチャネル
第15章  メジャートレンドライン
第15.1章 21世紀における平均株価の売買
第16章  商品先物チャートのテクニカル分析
第17章  第1部の要約と結論としての解説
第17.1章 21世紀のテクニカル分析とテクノロジー
第17.2章 投資分野の拡大

第2部 トレード戦術

第18章  トレード戦術の問題
第18.1章 長期投資家のための戦略と戦術
第19章  極めて重要な細かいこと
第20章  われわれが求める株式――投機家の見方
第20.1章 われわれが求める株式――長期投資家の見方
第21章  チャートをつける株式の選択
第22章  チャートをつける株式の選択(続き)
第23章  ハイリスク株の選択と売買
第24章  株式の予想される動き
第25章  2つの厄介な質問
第26章  単元株と端株の取引(各トレードの規模)
第27章  ストップオーダー
第28章 底とは何か――天井とは何か
第29章  トレンドラインの実践
第30章  支持と抵抗圏の使い方
第31章  ひとつの籠にすべての卵を盛るな
第32章  テクニカルなパターンによる値幅の測定
第33章  戦術的な観点からのチャートパターンの再検討
第34章 トレード戦術の要約
第35章  テクニカルな売買が株価の動きに及ぼす影響
第36章  自動化されたトレンドライン――移動平均
第37章  「よくあるパターン」
第38章  バランスと分散化
第39章  試行錯誤
第40章  投資資金
第41章  投資の実践
第42章  ポートフォリオリスク・マネジメント

訳者あとがき


■監修者まえがき

 本書はアメリカで長年にわたって多くの投資家に読み継がれてきた古典的名著”Technical Analysis of Stock Trends”の邦訳である。原書の旧版は『アメリカの株価分析――チャートによる理論と実際』として、1981年に東洋経済新報社から刊行されていたが、内容をアップデートした第8版が本国で出版されたのに伴い、日本でも新たに翻訳書が刊行されることになった。
 さて、本書で述べられているテクニカル分析は主にダウ理論を主としたシンプルなもので、すでに伝説的な手法と言ってもいいかもしれない。しかし、ここに述べられている内容が現在でも数十年前と変わらず依然として価値あるものであることは、本書が数十年に長きにわたって、マーケットに参加する多くの人々に支持され、実際のトレードでダウ理論が堅実な成果を上げ続けてきたことで証明されていると言ってよいだろう。いやそれよりもむしろ、だれにでも理解でき、実践可能な単純な理論だからこそ、時の試練を経て今もなお有効性を保ち続けていられるのであろう。
 さらに、マーケット全体の動向を把握するために、すでに数十年前の段階でダウ平均株価に注目したことはきわめて優れた着眼であったと言えるが、スタイル別に多くの指数が開発された現在においては、その価値はさらに高まっているといえる。つまり、ここから分かることは、市場とそれに参加する人々のメンタリティに基本的な変化がない以上、必ずしも新しい分析手法のほうが優れているというわけではないということなのである。少なくとも、泡のように生まれては消えていく新奇をてらった「テクニカル分析」よりは、本書に示されているような伝統的な手法のほうがはるかに信頼性が高く、長期的な成功を約束してくれるのである。
 この古典的名著を日本で刊行できることは、関係者一同にとっても大変な喜びであり、私たちの努力の成果が読者の成功の一助になることができればまた望外の幸せである。本書はテクニカル分析に関して多くの範囲を網羅しており、したがって原書は非常に大部なものである。このため翻訳書の刊行に当たっては読みやすさを考慮し、「入門編」と「実践編」の上下2分冊で刊行されることになった。また、版を重ねてきた本書の特徴として、歴史的に初期のころの図表においては、一部に少し見にくいものも掲載されているが、なによりそれは本書で述べられている分析手法が時を超えて普遍的なものであることの証明でもある。なお、図表の番号は継続性を持たせるために、原書どおり上下で通番とし、巻末の付録と用語解説は「実践編」にまとめられている。
 最後になったが、本書の翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。関本博英氏は本書にふさわしい、読みやすい翻訳を実現してくださった。そして阿部達郎氏にはいつもながら丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が出版される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏の慧眼によるところが大きい。

 2004年7月

長尾慎太郎

■訳者あとがき

 1948年の初版刊行から今回で8版を重ね、50年以上にわたって世界中の投資家の間で読み継がれてきた本書は、すでに株式市場のテクニカル分析の「バイブル」となっている。グレアムとドッドの『証券分析』(パンローリング)がファンダメンタルズ分析の原点であるとすれば、エドワーズとマギーのこの『Technical Analysis of Stock Trends』はテクニカル分析の原点である。
 『証券分析』は1930年代半ばからほぼ50年間に、その時代の証券問題を分析した独立したシリーズ本として5冊が出版されたが、本書はこの50年間にその時代に応じた改訂を加えただけで現在に至っている。これは実に驚くべきことである。しかし、読者の皆さまが本書を手にとってここに書かれていることを熟読されるならば、そうした事実は何ら驚くべきことではなく、むしろ当然のことだと納得されるだろう。
 アメリカにおける株式市場のテクニカル分析の歴史はかなり長い。ウォール・ストリート・ジャーナルの設立者であり、また1884年にダウ平均株価を開発したチャールズ・ダウのダウ理論に始まり、ダウの同僚だったウィリアム・P・ハミルトンなどがダウ理論に基づくテクニカル分析をさらに発展させた。そして1930年代にはフォーブス誌の編集長だったリチャード・シャバッカーが、平均株価の重要なパターン(各種チャートパターン、トレンド、反転・保ち合いパターンなど)は個別株式にも出現することを突き止め、それらをテクニカル分析の理論として体系化した。シャバッカーの義弟だったロバート・エドワーズは、こうしたテクニカル分析の研究の流れをさらに広く深いものにした。経済・統計学者であり、また農業・気象・鳥類学の造詣も深かったエドワーズは、人間性の深い研究者でもあった。ジョン・マギーの同僚であり、また生涯の友であったエドワーズは1965年に亡くなったが、それまでアメリカに蓄積されたテクニカル分析のアプローチを科学的に集大成したのが本書である(このあたりの経緯については本書の序文に詳述されている)。
 本書では「歴史は繰り返す」ということが大きな前提になっている。それならば、歴史に精通すればするほど、将来に起こりうる結果を正確に予想できるのだろうか。その答えはある程度までは「イエス」であるが、完全にとなれば「ノー」である。それは歴史がまったく正確にまたは同じく繰り返されることはないからである。しかし、ある時期のある株式と別の株式の動き、まったく異なる時期のいくつかの株式には多くの類似点が見られる。すなわち、昨年、5年前さらには50年前の株価のパターン、トレンド、支持・抵抗圏などがかなり似ていることも少なくない。そうであれば、それらを形成する株価のパターンに何らかの原則やルールを探すことができるのではないか。
 こうした視点を念頭に置きながら、本書の読み方についてマギーの次のような言葉を引用しておこう。
 「この本はちょっと目を通すといった性質のものではないし、また簡単に金儲けできるような内容が書いてあるわけではない。読者の皆さんはこの本を何度も熟読し、株式投資の参考書として利用すべきである。最も重要なことは皆さん自身が成功と失敗の両方を実際に経験することである。そうすれば自分のしていることは、さまざまな状況の下で自分ができる唯一のロジカルな行為であることが分かるだろう。このような心構えを持てば、皆さんはそれに見合った程度に成功するだろう。そして失敗も株式投資というビジネスの一環としてうまく切り抜けられるようになれば、投資資金も投資意欲もなくなることはないだろう。本書を通じて詳述・分析されているのは、株式投資の手法というよりはむしろ株式投資の哲学なのである」
 テクニカル分析のバイブルとも言える本書の邦訳を決定された後藤康徳氏(パンローリング)、膨大なチャートや本文の編集・校正でお世話になった阿部達郎氏(FGI)、素敵な装丁の新田和子氏、皆さまのご尽力に感謝いたします。

 2004年6月

関本博英

■第10.1章 潜在的な重要性を持つ短期パターン Short-Term Phenomena of Potential Importance

 1日または数日間の極めて短期のパターンは、ときにその後の短期のトレンドばかりでなく、長期の方向も示唆することがある。ギャップ(第12章で検討する)や1日の反転(第10章で検討)などはこのパターンに分類される。注目すべきその他の短期パターンには、スパイク、キーリバーサルデイ(単に「リバーサルデイ」とも呼ばれる)、ランナウエーデイ(「ワイドレンジングデイ」とも呼ばれる)などがある。

 スパイク(Spike)

 天井圏に現れるスパイクとは前後する日の高値よりも突出して高い日、底値圏のスパイクは前後する安値よりも突出して安い日であると定義されるため、スパイクが起こった日にそれであると判断することはできない。スパイクの日をランナウエーデイと区別するには、異常なレンジで変動した日に続く数日間の推移を見なければならない。この2つのパターンはいずれも強気筋と弱気筋の全面戦争を表しており、その日の終値が最終的な勝者を暗示している。スパイクのポイントは次のようなものである。

  1. スパイクに先立つ一定期間の相場の基調はかなり強い(または弱い)。
  2. 株価はその日の値幅の上限または下限の近辺で引ける。
  3. 前後する数日間よりも突出して高い(または安い)。
 長期の強気相場の最終局面で極めて大きな値幅で変動した日に、突出高したあとにその日に安値近くで引けたときは1日の反転シグナルと解釈できる。このパターンをトレードできるかどうかは、その投資家のトレーディングスタイル(長期保有、サヤ取りなど)や好みなどによって決まる。事実、スパイクは1日の反転にもなり(ギャップを付けて寄り付いたあと、大量の買いが入って急騰するが、その後に株価は崩れて始値より安く、またはその日の最安値近くで引ける)、このような値動きは撤退するかに見せかけた敵軍の反撃に遭って逆に敗走する軍隊の動きに似ている。このような状況を想起すれば、スパイクの特徴がよく分かるだろう。スパイクのあとに株価はそれまでとは反対方向に大きく逆行するのが普通である。図104.1は最近のスパイクの好例であり、また図1や図35にもスパイクのパターンが見られる。

 ランナウエーデイ

 ランナウエーデイとはその日の安値で寄り付き、その日の高値で引ける(またはその逆)など、異常な値幅で変動した日である。このパターンも敗走するかに見せた敵軍がこちらの軍隊を罠に陥れようとする動きに似ている。売り方は買い方からの買い注文を吸収しきれず、株価は2~3回もその日の高安値を行ったり来たりする。抜け目のない投機家はこの動いている電車に飛び乗って利ザヤを稼ごうとするが、最終的な損益が確定するのは数日後である。大きな揉み合いと高水準の出来高が続けばランナウエーデイの確認となるが、取引が細って値動きも小さくなればその有効性は疑わしい。この数日間に一時的に買いシグナルが出ても、株価がランナウエーデイの最安値に反落したときはダマシのシグナルと見られるのでドデンをすべきである。図39はギャップを伴ったランナウエーデイの一例。2000年のマイクロソフト株の値動きを示した図104.2も、強気の落とし穴のあとに株価が50%も急落したランナウエーデイの好例である。

 キーリバーサルデイ

 このパターンは上昇局面で新高値を付けたあと、前日の終値を下回って引けた日である。短期のトレーディングシグナルとして利用できるが、その他のテクニカルパターンと同様に、そこから利益を上げるには判断力とベストのタイミングが必要である。強気相場ではこのパターンの一時的な高値をうまく利用すれば、いくらかの利益は上げられるだろう。大天井のキーリバーサルデイではこの日の高値近辺に空売りのストップを入れ、終値で買い戻せば効果的である。このようなリバーサルデイでは反対側に利益目標値を設けて素早く手仕舞う。もっとリスクを取れるならば、まず最初にその後の反落を見越したポジションを建て、予想どおりのパターンが現れたときに、そして株価が支持線を下抜いたときに増し玉してもよい。
 このパターンは2000年以降のインターネット関連株のように保ち合い相場でも有効であり、キーリバーサルデイをうまく利用したトレーダーは2000年初めのナスダックのミニクラッシュを無傷で乗り切ることができた(図104.3~104.4を参照)。忘れてならないのは、これ以外のすべての短期パターン(ギャップ、1日の反転、スパイク、ランナウエーデイ)のシグナルについても、その後の株価がパターン形成の最初の水準に戻ればそれはダマシのシグナルであり、そのようなときはドデンして利益を狙うべきである。こうした手法は利ザヤ稼ぎのトレーダーや投機家のトレード戦術であるが、長期投資家がこのような方法を知っておいてもけっして損はないだろう。

■第28章 底とは何か――天井とは何か What is a Bottom-What is a Top?

 この章では大天井や大底、さらには中勢天井や底を作るものは何かについて説明しようとするのではない。以下で検討するのは、株式のテクニカルな売買をするときにひとつの重要なカギとなる目先の天井と底についてである。ストップの水準、トレンドライン、目標株価、支持・抵抗圏などは目先の天井と底によって決まる。これはトレーダー(短期売買の投資家)にとって最も重要なことである。通常では目先の天井や底についてはチャート上ではっきりと分かるが、ときには分からないこともある。すなわち、ここが天井や底である、あそこは天井または底ではない――などとはっきりと判断できないこともある。しかし、それらの場所をわれわれに教えてくれる何らかの基準、すなわち実際に利用できる実用的なルールを設けることは可能であり、またそうしたルールがあればかなり便利であろう。
 ストップオーダーの位置を決めるひとつの有効なルールは、株価が予想される底値圏の最安値を付けた日から3日間にわたり、そのレンジよりも高い水準で数位すればその安値が底値と考えられる。このルールに従えば、もしも株価が数日にわたり下げ続けたあとに、その日の高値25ドルを付けたが結局は24ドルの安値で引けたときは、その後に25 1/8ドル以上の日が3日間続かないと底が形成されたことにはならない。つまり、この丸3日間は最安値を付けた日の高値よりも上方のところで株価が推移しなければならない。これが「3日間のルール」であり、天井圏ではこれを逆に適用すればよい。すなわち、最高値を付けた日から3日間は株価がそれより安い水準で推移しなければならない。
 これが最初のストップを入れたり、またはストップオーダーの水準を変更する基準となるものである。具体的に説明すると、株価が新底値を付けたと思われる日のレンジよりも高い水準で3日間推移したら、直ちにその底値の下のところにストップを移動する(ストップオーダーの水準と底値との距離の測定法については第27章で説明した)。買いのときのプロテクティブストップの水準は、株価の上昇に伴って単純に上方に移動させていけばよい。いったん決めたストップの水準は配当・権利落ちを除いてけっして下方に移動してはならない。そうした権利落ちがあったときは、ストップの位置をその分だけ引き下げる。同じように空売りのときのプロテクティブストップの水準も引き上げることはなく、下方にだけ移動していく(やはり配当・権利落ちのときは、空売りのストップの位置をその分だけ引き下げる)。底と天井を判断することが難しいこともあるが、それは株価が中期トレンドの方向に進まず、保ち合いまたは調整局面に入ったと思われるときである。このような場合(株価が一連の動きとその反動で上下するようなはっきりした状況は別として)、目先の基点をどこにとるのかを決めるには判断力と経験が必要となる。

 基点

 ストップオーダーを入れる水準のベースとなる位置を「基点(Basing Point)」という。既述したように、強気相場では株価が目先底から上昇したあと、3日間にわたってそのレンジよりも高い水準で推移すれば、その底値をストップオーダーの水準を決める基点とする。上げ相場のときは目先天井を基点とし、下げ相場では目先底をその基点とする。株価がメジャートレンドの方向に例えば15%以上上昇したあと、その上げ幅の少なくとも40%を押したが、その後に再び元の方向に向かうときはすぐに基点が分かる。しかし、もしも株価が40%に達しない程度に押したあと、1週間以上にわたってその近辺で保ち合ったとしても、その後に株価が再びメジャートレンドの方向に向かえば、やはりその水準を基点と考えてもよい(ただし、出来高の推移と照らして判断すべきである)。
 何回も見てきたように、日々の出来高とは熟練した看護婦が用いる体温計のようなものである。つまり、その株式に何が起こっているのかについては株価が多くのことを語ってくれるが、出来高は①株価が保ち合い圏から上放れた日、②株価が大勢または中期のトレンドの方向に向かって新値をとった日(上げ相場では直近の目先天井を上抜き、下げ相場では目先底を下抜いた日)、③目先の動きが完成またはほぼ完成しつつある日(上げ相場では目先の新高値、下げ相場では目先の新安値を付ける日)――を教えてくれる。さらに株価がメジャートレンドの方向に推移するなかで、ある日に再び大出来高ができれば、それは当初予想された上昇や下降が起こらず、その動きが終了したことを示唆している。
 ところで、目先の天井が形成されて(株価が新高値を付けて)そこで大出来高ができると、そのあとは調整局面を迎えることが多い。その期間は数日から1週間、ときにはさらに長期にわたることもある。既述したように、その調整パターンは必ずしも下向きのはっきりした形になるわけではなく、1週間以上にわたって水平圏で揉み合うこともある。下向きの調整となるときは、おそらく直近の目先天井(支持圏)近辺まで下げるだろう。または以前の2つ以上の安値を結んだ基本的なトレンドラインまで、もしくは以前の2つ以上の高値を結んだトレンドラインと平行なリターンライン(アウトライン)まで下げることもある。もしも調整が水平の動きとなれば、おそらく株価がこれらのいずれのラインに接するまでその調整の動きは続くだろう。
 そのいずれにしても、そこで注意しなければならないのは、出来高が減少することである。新たな天井を形成してから数日間に不規則ながら全体として出来高が着実に減少し、その間に株価が反落、または少なくともメジャートレンドの方向に進んでいなければ、そこは目先の調整局面と見て間違いない。一方、株価がメジャートレンドの方向に進みながら、目先底と思われる日のレンジよりも高い水準で3日間にわたって推移したら、この底値(トレンドラインはこの位置に沿って引かれる。水平な動きのときは必ずしも直近の安値を結ばなくてもよい)が新しい基点と考えられる。
 株価が気迷いの動きの期間を脱して新しい動きを始めたと思われるとき、どの位置を目先底と考えたらよいのか分からないときがある。真のブレイクアウトの前などは出来高が少なく、株価がどっちつかずの小さな動きを見せることもあるが、そのようなときは出来高の増加をブレイクアウトのシグナルと考えて、その直前の安値を基点とする。通常ではブレイクアウトが起こる3~4日前の出来高の少ない日が基点となる。
 上げ相場の基点について述べてきたことは、逆の形で下げ相場にもすべて当てはまるが、下放れに大出来高が必ず伴うとは限らない。ところで、長期にわたる上昇局面のあと、はっきりしたフラッグを形成し始めた株式を出来高が減少して40%ほど押したところを買ったが、その後も続落して反発の動きやそれを示唆する出来高のシグナルも現れないような厳しい局面に直面することがある。こうした状況はそれほど頻繁には起きないが、上昇または下降のいずれの局面でもときどき見られる。このようなケースでは以前の下降トレンドの途中に(保ち合い圏や何回も高値を付けたところに)支持圏があると考えられ、その水準は買いを入れたところよりも下方にあったのである。ほぼ垂直に急騰したときの出発点である大底の下にストップオーダーを入れるよりは、この支持圏を基点としたストップの位置を考えたほうがよい。
 しかし、このようなケースについては適当な基点を見つけることは実際にはかなり難しい。したがって、①株価が明らかに基点と考えられる支持圏を上抜くまで上昇した、または②株価が数年来の高値圏にあって下がる気配がほとんどない――などの場合を除いて、長期にわたる続伸のあとの調整局面でそうした株式を買うのはあまり賢明ではない(その逆の下げ相場で空売りするときは、株価が強力な抵抗圏の下方にある、または過去数カ月来の新安値圏にあることが条件となる)。株価が長期にわたって急勾配で上昇したあと保ち合い圏に入った株式を売買するときは、フラッグやペナントなどの調整パターンの形成途上では出来高が著しく減少しなければならない。
 中期のトレンドを売買するときの注意点がもうひとつある。あるトレンドの一連の動きが極めて規則正しい形で現れることがあるが、そのときははっきりしたトレンドラインが存在するし、既述したルールどおりに40~50%の押しを入れたあとに再び直近の目先天井まで反騰するものである。出来高は調整局面では減少し、新しい天井を付けるときは急増する。株価がいつまでもこうした規則的な動きを続けると予想して、株価がこうした階段みたいに動くところで出動するのは簡単である。しかし、こうした動きがずっと続くことはなく、いずれ最後の目先天井に達する。基点を見つけることの重要さは、たとえ株価が基点のひとつを終値で割り込むことがあっても、プロテクティブストップを使ってその取引をクローズできることである。
 そのトレンドの株式取引をいつ終了するのかを決めるとき、出来高は大きな手掛かりとなる。一般に株価が天井を付けるときは大出来高ができるが、以前の天井形成のときよりも出来高がかなり急増したら、それには大きな疑問を抱くだろう。あるトレンドのなかで最後の(またはその次の)噴き上げのときの出来高は、それ以前の目先の噴き上げのときよりも高水準であるのが普通であり、中期のトレンドを形成してきた一連の動きはこれから調整局面に入ると予想すべきである。それから数週間または数カ月後に株価は中期のトレンドの上昇幅の40%またはそれ以上の調整となり、株価はほとんど小動きに終始するようになるだろう。そのときは大勢方向に向けてやがて新しいトレンドが形成され、新たなチャンスが来るのを待つときである。

■第34章 トレード戦術の要約 A Quick Summation of Tactical Methods

 株式売買の戦術は、①新規の仕掛け、②予想どおりに展開して評価益が出たポジションを手仕舞って利益を確定する、③予想どおりに進まなかったポジションを損切りする――の3つの大別される。トレンド、支持・抵抗圏、各種チャートパターンによる値幅測定、出来高の推移などのテクニカル指標によって利益を確定する方法についてはすでに述べた。チャート上に現れたパターンが一般的な売買ルールどおりに、そして予想した方向に進んでいるかぎり、利益を確定する方法に特に難しい問題は生じない。評価益の出ているポジションの手仕舞いポイントを決定するのは簡単である。難しいのは新規の仕掛けを正しく行うこと、評価損の出ているポジションをできるだけ少ない損失にとどめて手仕舞う防御的な手法である。
 強気の動きをストップしたとして売却した株式がその後に反発したからといって、必ず空売りしなければならない理由はない。株価がそれまでのトレンドから幾分外れたり、またはまったく別の方向に向かうようなシグナルが現れても、それが直ちにそれまでとは反対のトレンドを前提とした取引に転換せよというシグナルになるわけではない。例えば、対称三角形や長方形からそれまでのトレンドとは反対の方向に株価が向かうようなときは、これまでの取引から新しい方向に向けた取引に転換せよというひとつのシグナルであろう。しかし、ヘッド・アンド・ショルダーズやその他の反転パターンが未完成に終わり、株価が以前の目先底の水準を下抜いてトレンドラインから外れたとしても、それは評価損の出ているポジションを手仕舞う理由にはなっても、新しい方向に向けた新規の仕掛けを正当化するものではない。以下は株価のシグナルに応じた対処法をまとめたものである。

 次のようなときはポジションを手仕舞う。

  1. 株価がヘッド・アンド・ショルダーズからそれまでとは反対方向に放れた。
  2. 株価が対称三角形からそれまでとは反対方向に放れた。
  3. 株価が長方形からそれまでとは反対方向に放れた。
  4. それまでとは反対方向に新しい目先底や天井が形成された。
  5. 株価がダイヤモンドからそれまでとは反対方向に放れた。
  6. 株価がウエッジからそれまでとは反対方向に放れた。
  7. 大出来高やギャップを伴って1日の反転パターンが出現した。
  8. 株価がフラッグやペナントからそれまでとは反対方向に放れた。
  9. 株価が支持・抵抗圏からそれまでとは反対方向に放れた。
  10. それまでとは反対方向にブレイクアウエーギャップが形成された。
  11. 株価がそれまでと同じ方向に動いたあとアイランド(島)が形成された。
  12. 特定のパターンやその他の有効なシグナルは現れないが、株価が基本となるトレンドラインを突破した。

    (注 終値でそのパターンを突破しなければ、真のブレイクアウトとはならない。支持圏、トレンドライン、各種チャートパターンからそれまでとは反対方向に終値で3%以上放れることが有効なシグナルである。ポジションを手仕舞うときは、前日終値より上下1/8ドルのところに入れたプログレッシブストップを使う)

 新規に仕掛けるとき。

  1. 株価がダウ平均のメジャートレンドと一致している。株価がダウ平均のメジャートレンドと一致していないときは、全体のリスクを小さくするため投資額を制限する。
  2. 株価がヘッド・アンド・ショルダーズから放れた。
  3. 株価が対称三角形のスタート地点から頂点までの距離の2/3以内のところで放れた。
  4. 株価が直角三角形から放れた。
  5. 株価が長方形から放れた、または(できれば)そこが第6番目の反転ポイントだった。
  6. 株価が拡大型の天井から放れた。
  7. 株価がダブルトップ(またはダブルボトム)やトリプルトップ(またはトリプルボトム)から放れた(株価が同トップの谷の水準を下抜いた、または同ボトムの山の水準を上抜いた)。
  8. 株価がウエッジから放れた(できれば、スタート地点から頂点までの距離の最後の1/3以内で放れた)。
  9. (できれば)そのパターンで十分な調整を経たあとにフラッグやペナントが形成された(ただし、出来高やその他のシグナルがそれをはっきりと確認していることが条件となる)。
  10. 株価がはっきりした支持または抵抗圏から決定的に放れた。
  11. (できれば)ブレイクアウエーギャップが形成された。
  12. かなり大きく動いたあと、はっきりしたアイランド(島)が形成された。
  13. トレンドラインとリターンライン(アウトライン)が同じ方向を向いているとき、株価がトレンドラインと接したまたはそれを突破した(この場合のトレンドラインとは、強気相場では上方の青のトレンドライン、弱気相場では下方の赤のトレンドラインを指す)。

    (注 株価がそのパターンから放れた、またはある水準を突破したというのは終値による3%以上のブレイクで、それと同時に出来高の条件も満たさなければならない。「できれば」と書いた新規の仕掛けは長方形、ウエッジ、フラッグ、ペナントなどのパターンのときに適用されるが、そうしたときは特に注意が必要である。またブレイクアウエーギャップであると判断するのは極めて難しく、このギャップを取引条件に含めるのはあまりお勧めできない。しかし、最近では通信技術、コンピューター、インターネットなどの発展により、こうしたこともマギーの時代のときほど難しくなくなった。すべての仕掛けではそれと同時にストップオーダーを入れるが、それを移す条件が整ったときは常に有利な方向に移動していく)


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