第1部 テクニカル分析の理論
第1章 株式の売買と投資に対するテクニカルなアプローチ
第2章 チャート
第3章 ダウ理論
第4章 ダウ理論の実践
第5章 ダウ理論の欠点
第5.1章 20~21世紀におけるダウ理論
第6章 重要な反転パターン
第7章 重要な反転パターン(続き)
第8章 重要な反転パターン――三角形
第9章 重要な反転パターン(続き)
第10章 その他の反転パターン
第10.1章 潜在的な重要性を持つ短期パターン
第11章 保ち合いパターン
第12章 ギャップ
第13章 支持線と抵抗線
第14章 トレンドラインとチャネル
第15章 メジャートレンドライン
第15.1章 21世紀における平均株価の売買
第16章 商品先物チャートのテクニカル分析
第17章 第1部の要約と結論としての解説
第17.1章 21世紀のテクニカル分析とテクノロジー
第17.2章 投資分野の拡大
第2部 トレード戦術
第18章 トレード戦術の問題
第18.1章 長期投資家のための戦略と戦術
第19章 極めて重要な細かいこと
第20章 われわれが求める株式――投機家の見方
第20.1章 われわれが求める株式――長期投資家の見方
第21章 チャートをつける株式の選択
第22章 チャートをつける株式の選択(続き)
第23章 ハイリスク株の選択と売買
第24章 株式の予想される動き
第25章 2つの厄介な質問
第26章 単元株と端株の取引(各トレードの規模)
第27章 ストップオーダー
第28章 底とは何か――天井とは何か
第29章 トレンドラインの実践
第30章 支持と抵抗圏の使い方
第31章 ひとつの籠にすべての卵を盛るな
第32章 テクニカルなパターンによる値幅の測定
第33章 戦術的な観点からのチャートパターンの再検討
第34章 トレード戦術の要約
第35章 テクニカルな売買が株価の動きに及ぼす影響
第36章 自動化されたトレンドライン――移動平均
第37章 「よくあるパターン」
第38章 バランスと分散化
第39章 試行錯誤
第40章 投資資金
第41章 投資の実践
第42章 ポートフォリオリスク・マネジメント
2004年7月
長尾慎太郎
2004年6月
関本博英
スパイク(Spike)
天井圏に現れるスパイクとは前後する日の高値よりも突出して高い日、底値圏のスパイクは前後する安値よりも突出して安い日であると定義されるため、スパイクが起こった日にそれであると判断することはできない。スパイクの日をランナウエーデイと区別するには、異常なレンジで変動した日に続く数日間の推移を見なければならない。この2つのパターンはいずれも強気筋と弱気筋の全面戦争を表しており、その日の終値が最終的な勝者を暗示している。スパイクのポイントは次のようなものである。
ランナウエーデイ
ランナウエーデイとはその日の安値で寄り付き、その日の高値で引ける(またはその逆)など、異常な値幅で変動した日である。このパターンも敗走するかに見せた敵軍がこちらの軍隊を罠に陥れようとする動きに似ている。売り方は買い方からの買い注文を吸収しきれず、株価は2~3回もその日の高安値を行ったり来たりする。抜け目のない投機家はこの動いている電車に飛び乗って利ザヤを稼ごうとするが、最終的な損益が確定するのは数日後である。大きな揉み合いと高水準の出来高が続けばランナウエーデイの確認となるが、取引が細って値動きも小さくなればその有効性は疑わしい。この数日間に一時的に買いシグナルが出ても、株価がランナウエーデイの最安値に反落したときはダマシのシグナルと見られるのでドデンをすべきである。図39はギャップを伴ったランナウエーデイの一例。2000年のマイクロソフト株の値動きを示した図104.2も、強気の落とし穴のあとに株価が50%も急落したランナウエーデイの好例である。
キーリバーサルデイ
このパターンは上昇局面で新高値を付けたあと、前日の終値を下回って引けた日である。短期のトレーディングシグナルとして利用できるが、その他のテクニカルパターンと同様に、そこから利益を上げるには判断力とベストのタイミングが必要である。強気相場ではこのパターンの一時的な高値をうまく利用すれば、いくらかの利益は上げられるだろう。大天井のキーリバーサルデイではこの日の高値近辺に空売りのストップを入れ、終値で買い戻せば効果的である。このようなリバーサルデイでは反対側に利益目標値を設けて素早く手仕舞う。もっとリスクを取れるならば、まず最初にその後の反落を見越したポジションを建て、予想どおりのパターンが現れたときに、そして株価が支持線を下抜いたときに増し玉してもよい。
このパターンは2000年以降のインターネット関連株のように保ち合い相場でも有効であり、キーリバーサルデイをうまく利用したトレーダーは2000年初めのナスダックのミニクラッシュを無傷で乗り切ることができた(図104.3~104.4を参照)。忘れてならないのは、これ以外のすべての短期パターン(ギャップ、1日の反転、スパイク、ランナウエーデイ)のシグナルについても、その後の株価がパターン形成の最初の水準に戻ればそれはダマシのシグナルであり、そのようなときはドデンして利益を狙うべきである。こうした手法は利ザヤ稼ぎのトレーダーや投機家のトレード戦術であるが、長期投資家がこのような方法を知っておいてもけっして損はないだろう。
基点
ストップオーダーを入れる水準のベースとなる位置を「基点(Basing Point)」という。既述したように、強気相場では株価が目先底から上昇したあと、3日間にわたってそのレンジよりも高い水準で推移すれば、その底値をストップオーダーの水準を決める基点とする。上げ相場のときは目先天井を基点とし、下げ相場では目先底をその基点とする。株価がメジャートレンドの方向に例えば15%以上上昇したあと、その上げ幅の少なくとも40%を押したが、その後に再び元の方向に向かうときはすぐに基点が分かる。しかし、もしも株価が40%に達しない程度に押したあと、1週間以上にわたってその近辺で保ち合ったとしても、その後に株価が再びメジャートレンドの方向に向かえば、やはりその水準を基点と考えてもよい(ただし、出来高の推移と照らして判断すべきである)。
何回も見てきたように、日々の出来高とは熟練した看護婦が用いる体温計のようなものである。つまり、その株式に何が起こっているのかについては株価が多くのことを語ってくれるが、出来高は①株価が保ち合い圏から上放れた日、②株価が大勢または中期のトレンドの方向に向かって新値をとった日(上げ相場では直近の目先天井を上抜き、下げ相場では目先底を下抜いた日)、③目先の動きが完成またはほぼ完成しつつある日(上げ相場では目先の新高値、下げ相場では目先の新安値を付ける日)――を教えてくれる。さらに株価がメジャートレンドの方向に推移するなかで、ある日に再び大出来高ができれば、それは当初予想された上昇や下降が起こらず、その動きが終了したことを示唆している。
ところで、目先の天井が形成されて(株価が新高値を付けて)そこで大出来高ができると、そのあとは調整局面を迎えることが多い。その期間は数日から1週間、ときにはさらに長期にわたることもある。既述したように、その調整パターンは必ずしも下向きのはっきりした形になるわけではなく、1週間以上にわたって水平圏で揉み合うこともある。下向きの調整となるときは、おそらく直近の目先天井(支持圏)近辺まで下げるだろう。または以前の2つ以上の安値を結んだ基本的なトレンドラインまで、もしくは以前の2つ以上の高値を結んだトレンドラインと平行なリターンライン(アウトライン)まで下げることもある。もしも調整が水平の動きとなれば、おそらく株価がこれらのいずれのラインに接するまでその調整の動きは続くだろう。
そのいずれにしても、そこで注意しなければならないのは、出来高が減少することである。新たな天井を形成してから数日間に不規則ながら全体として出来高が着実に減少し、その間に株価が反落、または少なくともメジャートレンドの方向に進んでいなければ、そこは目先の調整局面と見て間違いない。一方、株価がメジャートレンドの方向に進みながら、目先底と思われる日のレンジよりも高い水準で3日間にわたって推移したら、この底値(トレンドラインはこの位置に沿って引かれる。水平な動きのときは必ずしも直近の安値を結ばなくてもよい)が新しい基点と考えられる。
株価が気迷いの動きの期間を脱して新しい動きを始めたと思われるとき、どの位置を目先底と考えたらよいのか分からないときがある。真のブレイクアウトの前などは出来高が少なく、株価がどっちつかずの小さな動きを見せることもあるが、そのようなときは出来高の増加をブレイクアウトのシグナルと考えて、その直前の安値を基点とする。通常ではブレイクアウトが起こる3~4日前の出来高の少ない日が基点となる。
上げ相場の基点について述べてきたことは、逆の形で下げ相場にもすべて当てはまるが、下放れに大出来高が必ず伴うとは限らない。ところで、長期にわたる上昇局面のあと、はっきりしたフラッグを形成し始めた株式を出来高が減少して40%ほど押したところを買ったが、その後も続落して反発の動きやそれを示唆する出来高のシグナルも現れないような厳しい局面に直面することがある。こうした状況はそれほど頻繁には起きないが、上昇または下降のいずれの局面でもときどき見られる。このようなケースでは以前の下降トレンドの途中に(保ち合い圏や何回も高値を付けたところに)支持圏があると考えられ、その水準は買いを入れたところよりも下方にあったのである。ほぼ垂直に急騰したときの出発点である大底の下にストップオーダーを入れるよりは、この支持圏を基点としたストップの位置を考えたほうがよい。
しかし、このようなケースについては適当な基点を見つけることは実際にはかなり難しい。したがって、①株価が明らかに基点と考えられる支持圏を上抜くまで上昇した、または②株価が数年来の高値圏にあって下がる気配がほとんどない――などの場合を除いて、長期にわたる続伸のあとの調整局面でそうした株式を買うのはあまり賢明ではない(その逆の下げ相場で空売りするときは、株価が強力な抵抗圏の下方にある、または過去数カ月来の新安値圏にあることが条件となる)。株価が長期にわたって急勾配で上昇したあと保ち合い圏に入った株式を売買するときは、フラッグやペナントなどの調整パターンの形成途上では出来高が著しく減少しなければならない。
中期のトレンドを売買するときの注意点がもうひとつある。あるトレンドの一連の動きが極めて規則正しい形で現れることがあるが、そのときははっきりしたトレンドラインが存在するし、既述したルールどおりに40~50%の押しを入れたあとに再び直近の目先天井まで反騰するものである。出来高は調整局面では減少し、新しい天井を付けるときは急増する。株価がいつまでもこうした規則的な動きを続けると予想して、株価がこうした階段みたいに動くところで出動するのは簡単である。しかし、こうした動きがずっと続くことはなく、いずれ最後の目先天井に達する。基点を見つけることの重要さは、たとえ株価が基点のひとつを終値で割り込むことがあっても、プロテクティブストップを使ってその取引をクローズできることである。
そのトレンドの株式取引をいつ終了するのかを決めるとき、出来高は大きな手掛かりとなる。一般に株価が天井を付けるときは大出来高ができるが、以前の天井形成のときよりも出来高がかなり急増したら、それには大きな疑問を抱くだろう。あるトレンドのなかで最後の(またはその次の)噴き上げのときの出来高は、それ以前の目先の噴き上げのときよりも高水準であるのが普通であり、中期のトレンドを形成してきた一連の動きはこれから調整局面に入ると予想すべきである。それから数週間または数カ月後に株価は中期のトレンドの上昇幅の40%またはそれ以上の調整となり、株価はほとんど小動きに終始するようになるだろう。そのときは大勢方向に向けてやがて新しいトレンドが形成され、新たなチャンスが来るのを待つときである。
次のようなときはポジションを手仕舞う。
(注 終値でそのパターンを突破しなければ、真のブレイクアウトとはならない。支持圏、トレンドライン、各種チャートパターンからそれまでとは反対方向に終値で3%以上放れることが有効なシグナルである。ポジションを手仕舞うときは、前日終値より上下1/8ドルのところに入れたプログレッシブストップを使う)
新規に仕掛けるとき。
(注 株価がそのパターンから放れた、またはある水準を突破したというのは終値による3%以上のブレイクで、それと同時に出来高の条件も満たさなければならない。「できれば」と書いた新規の仕掛けは長方形、ウエッジ、フラッグ、ペナントなどのパターンのときに適用されるが、そうしたときは特に注意が必要である。またブレイクアウエーギャップであると判断するのは極めて難しく、このギャップを取引条件に含めるのはあまりお勧めできない。しかし、最近では通信技術、コンピューター、インターネットなどの発展により、こうしたこともマギーの時代のときほど難しくなくなった。すべての仕掛けではそれと同時にストップオーダーを入れるが、それを移す条件が整ったときは常に有利な方向に移動していく)