「証拠金」と聞くと、個人投資家に人気のFX(外国為替証拠金取引)を思い浮か
べる人もいるだろう。実際のところ、大きな仕組みはFXとほとんど変わらない。
CFDは“FXの証券・先物版”といえる。
例えば、1株1000円の銘柄を100株購入する場合、通常は10万円の総代金が必要
だ。しかし、証拠金率20%のCFDならば、たった2万円(総代金×証拠金率)の
証拠金で、この規模の取引ができるのだ。小額の資金で巨額の取引が可能な「資
金効率の良さ」が、CFDの魅力のひとつである(もちろんリスクにもなる)。
そして最大の魅力は、世界中の個別株、株価指数、債券、商品を対象とした多種
多様なCFDを、ひとつの口座から24時間取引できるところだ。世界のどこかに、
そして自分にとって都合の良い時間帯に、魅力的な値動きの銘柄が見つかるかも
しれない。
こうしたCFDの柔軟な商品性は、個人投資家にも「グローバルマクロのロング
ショート戦術」の実践を可能にしている。世界的なファンダメンタル分析で大局
をつかみ、そこにある“格差(サヤ)”から収益機会を見つけだすという、
ジョージ・ソロスに代表される多くのヘッジファンドマネジャーたちが採用して
いる運用戦術だ。
例えば、日本経済は1990年末のバブル崩壊以降、明るい展望が開けていない。社
会不安は拡大の一途、財政赤字は悪化の一途だ。一方、世界に目を向ければ、中
国やブラジルなどの新興国をはじめ、まさに伸び盛りの国々が多数ある。CFDを
利用して、連動する世界株式市場の変動リスクを回避しながら、この「成長のサ
ヤ」を享受する戦術が考案できるわけだ。
本書は「入門書」として、初心者でも実践しやすい「サヤ取り戦術」を紹介して
いる。また、その“土俵”となるCFDそのものを理解してもらうことが最も重要
なため、さまざまな視点から商品性について紹介した。
CFDは取扱会社によって細かな部分で“仕様”が異なるため、複雑な印象を投資
家に与えがちだ。しかし、本書から概要とその“歩き方”をつかめば、この新し
い金融商品を利用した、さまざまな運用戦術を考案できるだろう。
■はじめに
20代後半のとき、私は医者を辞め、それまでとは全く異なる世界――金融業界で「生きる術」を探し求めることにしました。
理由は、学生のころから抱いていた「日本の未来に対する危惧の念」が、社会人として問題の根深さを肌で感じることで、絶望的な水準にまで強くなっていったからです。重税、社会保険、医療保険、少子高齢化、既得権益、環境問題そして財政危機……日本社会はさまざまな“不治”の病に侵されています。
「このままでは将来絶望だ。結局、政府は私たちに負債のツケを押しつけるだけ。私の資産を守れるのは私しかいない」
以来、私は自らファンドを立ち上げ、資産の守り方について日夜研究を重ねています。そして、その研究から私が将来性を確信した運用手段のひとつ、それが本書で紹介する革新的金融商品「CFD――Contract For Difference」です。
すでに世界の金融取引は「CFD時代」へと突入しています。発祥の地である英国では、株式取引の40%がCFDがらみとなるまでに拡大しました。また2002年に導入されたオーストラリアでも、15%程度と急速に伸ばしています。さらにはEU諸国、香港、シンガポール、カナダと、世界70カ国以上で導入されており、資産運用の新しいスタイルとして注目されているのです。
私はCFDが「世界の金融取引の中心」になると確信しています。
CFD最大の魅力は、個別株、株価指数、債券、商品など、膨大な投資対象に、グローバルに、そして比較的小額の資金で投資できるところです。
日本経済は1990年末のバブル崩壊以降、総じて低迷から抜け出せていません。社会に漂う不安感から内需は弱く、輸出依存の構造から脱却できずにいるのに、最大の外貨獲得手段である製造業は、アジア新興国の技術革新に追い上げられています。おまけに財政赤字は悪化の一途です。
政治経済が低迷する国では、得てして通貨、株式、債券、不動産など、いかなる資産クラスの価値も目減りします。そのような市場では、いかに優れた投資家でも、資産を増やすことは困難です。“引きこもっていて”は、預金だけでなく、投資資産の価値も減少する一方でしょう。
しかし、世界に目を向ければ、中国やブラジルなどの新興国をはじめ、まさに伸び盛りの国々が多数あります。CFDは、そうした新しい世界への投資の窓口となり、その成長性を享受することが可能なのです。
しかも、さまざまな資産クラスに適切に投資資金を分散できますから、分散投資のポートフォリオを構築することで資産急減のリスクを回避し、安定した運用成績を狙えます。つまり、CFDを活用すれば、従来の投資手段に比べてはるかに幅広い選択肢から「グローバルなポートフォリオ」を構築できるのです。
私が実践している「グローバルマクロ」にもとづくCFDサヤ取り戦術は、2007年のサブプライムショックや翌年のリーマンショックなど“100年に一度”と呼ばれる暴落局面でも、安定した成果を上げることができました。本書では「入門書」として、初心者でも実践しやすい戦略・戦術を紹介しています。
また入門書という性格から、CFDについて全く知らない方、あるいは短期のトレードに関心がある方にもご理解いただけるよう、仕組み(CFDの世界の歩き方)から説明しました。
ただし「仕組み」だからといって、甘く見てはいけません。なぜなら、CFDは各社一律の金融商品ではないからです。むしろCFDを扱う会社の数だけ、違う規格の銘柄(金融商品)があり、違う相場(価格)があると考えなければなりません。そのなかから、自分の投資スタイルにあったCFDを探し出すには、きちんとした「視点」を持つことが重要です。
本書で紹介する視点からCFDを研究することで、効率的に取り組んでいただけるのではないかと思います。